議員バッチと政治文化(中央大学教授 佐々木信夫)

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■ もともと議員バッジは「通行証」

日本には、717名の国会議員と約3万3千名の地方議員がいる。都道府県、市区町村の議員を合わせての話だが、この人たちをみると、誰でもわかる共通の点がある。

よく、街の中や電車で胸に「議員バッチ」をつけている人を見かける。赤紫、紫紺など丸いバッチだ。国会議員も地方議員もみなこれをつけている。最近こそ減ったが、結婚式でも葬式でも「議員バッチ」をつけている人も少なくない。ひと目でこの人は議員だとわかる工夫だと言われればそうかも知れない。しかし、欧米などをみると、こうした議員バッチなどつけている人はいない。そうした制度もない。バッチは韓国、日本など少数派だ。

もともと議員バッチは、議場への「通行証」としてつくられたものとされる。だが、いつの間にか、一般人と区別する特権的な身分のあかし、「身分証」のように変わってしまっている。日本の議員バッチには特別な効用があるように見える。

胸元のバッチが”権威“の象徴にみえるのだ。よく不祥事を理由に“責任をとって議員を辞職する”と会見などで述べる際、「議員バッチを外す」という表現を使う議員がいる。自身にとって、議員バッチは命の次に大事なものだろうか。ともかく、日常生活から冠婚葬祭まで肌身離さず議員バッチを着け歩く姿を見ると、このバッチの存在が“議員とは何か”を考える際の重要なヒント、日本の政治文化をみる場合のポイントといえそうだ。

 

■ 議員族にとって大切らしい”議員バッチ”

地方の話ではないが、東京の永田町周辺にいくと、ある種、議員バッチの集団であふれている。717名も国会議員がいるから、その議員会館周辺はバッチ族が多いのは当然だが、それを上回る数の地方議員が陳情請願ほか面談のために訪れる。彼らは省庁回りの後か先に必ず「オラが先生!」を訪ね、意見交換も含めいろいろお願いする。行政とは別な意味で、政治の世界の中央集権の構造を垣間見る思いがする。

それはともかく、国会議員のバッチはあたかも権威の象徴のように、ひときわ目立つ。

【図―】 参議院議員バッチ

参議院バッジ

 

衆議院は赤紫、参議院(写真)は濃紺のバッチと色の違いはあるが、これをつけている人といない人では、警備員らの扱いが全く違う。私たち一般人は、ボディチエックを受け議員とのアポイントがなければ、議員会館にすら入れない。因みに、国会に出入りする国会議員のほか、議員秘書にも専用のバッチが支給されているが、議員以外はバッチの着用のほか専用の身分証明書をセットで保持していないと国会に入ることはできないそうだ。もちろん、議員といえども、バッチがなければ中に入れない。過去に議員バッチを忘れてしまい、中に入れないので、後ろからきた議員からバッチを借りて入場したという間抜けな話まであるくらいだ。

ともかく、議員族にとってバッチは大切なもののようだ。国会に限らず、このバッチをつけている人たち(議員)は、都道府県で2613名、市区で19576名、町村で11249名いる(2015年)。平成大合併の始まる平成12年以前は64712名の地方議員がいた(平成10年)。それが現在、33438とこの15年間で半減している。原因は約4万に及んだ町村議員が約1万に減った点にあるが、ともかく約33500名の地方議員が、日本の公共分野の3分の2を占める自治体行政の決定者であることは間違いない。

どこまで本人に自覚があるかわからないが、議会制民主主義は議員に決定者の役割を委ねている。国会も含めこれに要する経費は、事務局経費など間接経費を除く歳費、報酬費など直接経費だけでも、ざっと5000億円。うち約4000億円近くが地方議員の経費とされる。

■ 地方議員のバッチも様々

議員バッチは赤紫、紫紺と色も違うし大きさもいろいろだが、共通しているのは、真ん中に小さく金色の菊花模様が見える点だ。大きさは様々でどれが国会議員、どれが県議会議員、どれが市区議会議員、町村議会議員のバッチかなど区別はできないが、ともかく議員バッチをつけている人が「議員」だという点ははっきりわかる。

聞くところでは、地方議員のバッチには様々な種類があるという。よく議員大会や議員セミナーでその集団にあうが、区別はよくわからない。都道府県の議員バッチは同じだが、同じ市議でも一般市議のバッチより政令市の市議は一回りバッチが大きい。町村議員の場合、一般議員のバッチは同じだが、議長バッチとか、郡の会長バッチまである。さらに国会議員同様、地方議員にも退職議員バッチがあり、議会によっては色の違う長期在職者バッチまであるようだ。10年、15年表彰の際、公布されるという。モールの巻かれていない略章(徽章)まである。ともかく、図は一例だが、こんなに地方議員がつけているバッチの種類はある。ほとんどの人はどれがどうだか知るすべもないが、彼(彼女)らの世界では絶対的な意味を持つようだ。これだけこだわるようだと、もしかして、落選中の元議員バッチまであるのかもしれない。

【図二】 地方議員のバッチの種類

地方議員バッジ

 

■ ある市の条例によれば、議員バッチは身分証らしい

地方議員の場合、国会と同様、議場に入る場合、バッチがなければ入れないのか。退職者バッチや長期在職者バッチはどのような時、使われるのか。いろいろ疑問はあるが、ある市の条例をみると、議員バッチについてこう規定している。

  • 議員は、その身分を明らかにするため、議員き章(以下「き章」という。)をはい用するものとする。
  • き章は、議員の当選が決定したとき直ちに交付する。
  • 議員が亡失その他の事由により、き章の再交付を受けるときは、実費を納入しなければならない。

 

どうやら、この規定からすると、議員バッチは身分証のようだ。議員活動をする際は、身分をそのバッチで明らかにせよと書いてあるものと理解される。なぜ、こうまで日本の議員はバッチにこだわるのだろうか。日本独特の政治風土のせいなのか。確かにバッチをつけていると、目立つという点で不祥事などの防止につながるかもしれない。しかし、一般市民を代表していると意識より、一段高い身分にいるという「身分の証」といった錯覚につながることはないだろうか。最近の、威嚇したり、威張ったり、暴力沙汰を起こす地方議員の事件を見聞きすると、特権意識があるようにみえてならない。

むしろ、まちづくりの代表、市民生活者の代表という感覚を植え付けるには、欧米のように議員バッチなどなくしたらどうか。意外にそうした「心の垣根」を外すところから、地方議員の改革が進むように思うがどうか。夕方あつまっての“5時から議会”、そうした土日夜間議会が広まっていく、サラリーマン議員が普通に議員活動のできる社会はできないだろうか。彼(彼女)らは、自分の所属する会社の社員証をつけたまま、議場で議論する。それは普通の会議の姿と変わりない。普段着の議会、それでもよいのではないか。

有権者枠を18歳まで広げ、ようやく世界標準に達したと胸を張る人がいるが、地方議会は兼職が普通、土日夜間が普通、実費程度の議員手当てが普通、この標準にいつになったら近づけるのか。日本の政治風土と市民の政治意識が変わることが求められている。

 

(中央大学教授 佐々木信夫)

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政活費の返還額が急増した理由(地方議会ニュース解説委員 山本洋一)

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昨年の“号泣県議騒動”を機に、使途への疑惑が深まった地方議員の政務活動費(政活費)。高知県議会では2014年度に支給したものの、使いきれずに返還された額が前年度の約3倍に急増した。議員がいったん手にした経費を渋々、返還したその理由とは――。

高知県議会の場合、議員が「調査研究」や「研修」などに充てることのできる政活費は一人あたり月14万円で年間168万円。県議会が1日に公表した資料によると、2014年度に36人の議員に支給した全6048万円のうち、1010万円が使われずに返還された。

返還率は16.7%。返還額は前年度の366万円から2.7倍に増え、返還額及び返還率は制度が始まった2001年以降で最も高かった。

なぜ、高知県議会で急に政活費の返還が増えたのか。号泣県議騒動で有権者の目が厳しくなったことも影響しているだろうが、それよりも大きいのは政活費に関する資料の全面的な「ネット公開」だろう。

高知県議会は1日から、全国で初めて政活費の収支報告書と領収書など関連資料をホームページで公開。それまでは平日の日中に議会事務局まで出向かなければならなかったが、いつでも、誰でも手軽に使途の内容や支出先などを確認できるようにした。

議会のホームページには会派、議員ごとに収支報告書と活動報告、出納簿を掲載。それぞれの支出に対応する領収書もすべて公開した。国会議員でもネットには収支報告書しか載せていないため、政活費に関しては全国で最も透明化が進んだ議会といえる。

これだけ透明化すると見る側、監視する側にとっては便利だが、見られる側にとってはかなりの圧力がかかる。これまではマスコミや市民団体が問題の起きた時だけチェックしていたが、これからは一般の有権者も含めて常に監視にさらされることとなるからだ。

以前は公開から5年間を過ぎれば資料が破棄されていたため「逃げ切り」も可能だったが、ネットに掲載したデータは複写や保存が容易なため、半永久的に残っていく可能性がある。「いつかバレるかも」と思えば、議員も不透明な支出を計上しようとは思わない。

高知県議会の取り組みを参考にして、他の都道府県や市町村も早急に政活費の徹底的な透明化に取り組むべきだ。高知では総額のみを記した領収書でも良しとしているが、さらに踏み込んでレシート添付などですべての支出明細を公開することも検討すべきである。

そして、国会もこうした地方の先進的な取り組みをぜひ、見習わなければならない。

国会議員は自らに関連する政治団体の収支報告書を公開しなければならないが、領収書については保存義務があるだけで、請求されない限り提出する必要はない。保存期間も3年と短く、これまで多くの不適切支出が見過ごされてきた。さらに、収支報告の義務すらない「文書通信交通滞在費」(文通費)の問題も放置されたままだ。

仮に文通費に収支報告や領収書の公開が義務付けられたなら、「正当な支出」では使いきれず、返還する例が相次ぐだろう。政治資金が潤沢な大物議員や世襲議員ほど文通費が余るため、「議員自らのポケットに入れている」からだ。

『使途や領収書のネット公開を始めた途端、返還額が急増した』。この事実は国会及び全国の議会に、多くの教訓を投げかけている。

 

(地方議会ニュース解説委員 山本洋一)

 

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【衝撃】誰も読んでない?沖縄大宜味村議会が外務省に送ったはずの憲法9条遵守の意見書「みつからない」との回答

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■ 沖縄県大宜味村の「憲法9条の厳守を求める意見書」を追跡

前回は青森県外ヶ浜町議会で可決された「安全保障関連法案(戦争法案)の廃案を求
める意見書」の行方を追ったのだが、クレームのごとく扱われ、結局意見書のゆくえはわからず惨敗となった。

今回は沖縄県大宜味村議会が可決した「憲法9条の遵守を求める意見書」の行方を追ってみる。

大宜味村議会の意見書は、内閣総理大臣、外務大臣、防衛大臣、外務省沖縄担当大使宛に郵送されているという。そこで、外務省に電話してみた。

■「憲法9条遵守意見書」を追って外務省に電話

まず、外務省の大代表の電話番号に電話した。

記者
突然のご連絡失礼いたします。私地方議会ニュースと申しますが、過日、沖縄県の大宜味村議会にて可決された「憲法9条の順守を求める意見書」の行方を追っておりまして、実際に外務大臣がお読みになったのかお聞かせ頂きたく思うのですが、担当部署にお電話繋いでいただくこと出来ますでしょうか?

「お待ちください」と言われ、何分間か電話口で待っていたところ、大代表の方がどなたかに意見書の扱われ方について聞いて頂いたようで、

外務省担当者(大代表)
大臣への意見書ということになると、公聴室もしくは情報通信課に行く。そこから主管課に渡った後、大臣のところに届いているかどうかということがわかる。

ということだった。

その後、公聴室、大臣室で大宜味村議会の意見書が回ってきていないか確認してもらうが、結局のところ見つからず

次に憲法9条を管理している安全保障政策課というところにつながった。安全保障政策課で現在どこの部署を回っているか調べてくれるという。折り返しのお電話いただくことになった。

しばらくしていただいた折り返し電話の結果はこうだった。

・大宜味村の意見書は見つからなかった
・憲法9条は安全保障政策課の管轄だが、まだ届いていない。
・意見書の取り扱い方は、基本的に大臣室に行き、大臣室→中身開封→大臣(お読みになるらしい)→主管課
・安全保障政策課の場合だと、ファイリングして意見書を保管している
・内容によっては、憲法9条の話であっても、他の課が主管している場合もあり、安全保障政策課に意見書が来ない場合もある。

というものだった。

■「意見書の流れ」食い違う主張

と、ここで気になることがでてきた。大臣宛に来た意見書が、
・大代表が省内の誰かに聞いた話だと、公聴室or情報管理課→主管課→大臣室
だが、
・安全保障政策課の人の大臣室→中身開封→大臣→主管課
となっており、全く逆なのだ。意見書が届いた際、どうなるかは決まっていないということなのだろうか。

■どこにあるかわからない意見書を気長に待つ

安全保障政策課では、回ってきた意見書をファイリングして保管しているという話を今回の電話で聞き出すことができた。憲法9条は安全保障政策課の主管であるということなので、いつかは意見書が回ってくるはずだ。

この意見書追跡シリーズの最終目的は、意見書がどう政策に反映されるかを聞き出すことにある。時間をおき、しばらくして再度届いていないか確かめ、届いていれば意見書がどう政策に反映されるか聞き出そうと思う。

意見書を出した地方自治体も、まさか自分たちの意見書が行方不明になっているとは知らないだろう。意見書は出すだけでは意味がなく、実際にどう政策に反映されているか、それは見届けたい。もし行方不明のままだったり、政策に反映されないということであれば、意見書そのものが、まったく意味のない、無駄なものだということになってしまう。

果たして、本当にそうなのか。さらに追跡して確かめたい。

(地方議会ニュース編集部)

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【安保法制意見書はどこに?】きいただけで官邸激怒! 実は総理も官僚も意見書を読んでいないのか?

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■ 意見書のゆくえを追跡

最近、集団的自衛権の行使を具体化する法案への廃案を求め、地方議会での意見書が相次いで可決されている。

意見書とは、「地方自治法99条の規定に基づき、地方公共団体の議会が国会又は関係省庁に提出することの出来る文書」のことをいう。

ただ、こうした意見書には、本当のところ、どれぐらいの効果があるのだろうか? もっといえば、意見書を受け取る国の側で、誰が実際に目を通し、どのように政策決定に反映されているのだろうか?

安保法制に関する意見書はすでに240以上の地方議会から提出されているという(6月20日NHKニュースより)から、実は“積読”状態になっているのでは……という心配もなくはない。

そこで地方議会ニュース編集部は今回、その意見書の処理のされ方を調査してみた。

【今回調査対象とした意見書】
自治体名:青森県外ヶ浜町
内容:安全保障関連法案(戦争法案)の廃案を求める意見書
提出先:内閣総理大臣、防衛大臣、衆参両議長

■ 官邸に電話してきいてみました

調査方法はいたってシンプルで、提出先となっている内閣総理大臣が実際に外ヶ浜町の意見書をご覧になっているのか電話するというもの。

結果を言えば、惨敗だった。

そもそも、大代表から繋がれた先は、担当者ではなく、総理官邸に来た様々な意見を受け

付けるという部署だった。……つまり、早い話がクレーム処理班である。

そのやり取りがこちらである。

記者:
地方議会ニュース編集部ともうします。外ヶ浜町議会が可決した「安全保障関連法案」(戦争法案)の廃案を求める意見書に関する意見書が今月13日頃に総理宛に郵送で送られていると思うのですが、実際に総理がご覧になっているか確認させていただくこと出来ますでしょうか?

官邸側担当者 :
ここは、そういう内容を扱うところじゃない!おそらくだが、内容がきちんとしていたら、総理がご覧になっているかと思うが、それ以上はお答えできません!

記者:
では、外ヶ浜町の意見書を総理がご覧になっているかどうかは確認させていただくことは難しいのでしょうか?

官邸側担当者:
だから、内容がきちんとしていたら総理がご覧になっているかと思うが、それ以上はお答えできません!

結局「内容がきちんとしていたらご覧になっている」の一点張りで、怒鳴られ、全然相手にしてくれなかった。そもそも担当が違うのなら、なぜ担当者に繋いでくれないのだろう。
まるでクレームの内容にカチンと来た担当者から怒られているような感じだった。

■ なぜこんなにも相手にされない?!
なぜ、こんなにもぞんざいに扱われてしまったのか?

・提出した当事者がかけてきた電話ではないから。
・地方議会ニュースが弱小なメディアだから。
(大手の調査だったら、もう少しまともにあつかってくれたのかも?)

と、そんな気がしている。あまりにも官邸“担当者”とのやりとりが無残だったので、今回はそれ以上の推察もできない。

■ 官邸勤務経験者 高橋洋一氏(嘉悦大学教授)にきく

そこで、官邸内での意見書の扱われ方についてちょっとでも迫ろうと、内閣参事官として官邸に勤務した経験のある高橋洋一・嘉悦大学教授にコメントを求めてみた。

高橋教授によると、
「あまり官邸でそうした陳情を受け取った記憶がありません。総務省の参事官が総務省からの情報をあげていると思いますが…」とのこと。

官邸勤務経験者の高橋教授でさえあまり目にしていないということだった。今回の調査で外ヶ浜町の意見書の行方を探し出すことはできなかった。また、これまでの意見書の処理方法についても、迫ることができなかった。

官邸内のどこかには送られているはずなのに…

「消えた意見書のゆくえ」を追う調査は引き続きおこなっていくつもりだ。

(地方議会ニュース編集部)

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住民投票を盛り上げる3要素(地方議会ニュース解説委員 山本洋一)

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全国で相次ぐ住民投票。5月に行われた大阪都構想の住民投票は多くの注目を集め、投票率は直近の国政選挙や地方選を大きく上回った。一方、関心が高まらず、開票すらされなかった例もある。有権者を引き付ける住民投票、有権者不在の住民投票の違いとは。

「都構想」に市民が高い関心
大阪都構想の住民投票では大阪市の有権者210万人のうち、140万人超が投票。投票率は66.8%に達した。この数字は昨年末に行われた衆院選の57.4%(小選挙区)、今年4月の市議選の48.6%を上回り、投票率の低い都市部としては異例の高さとなった。

関心が高まった最大の理由は、テーマが大阪市を解体し、5つの特別区に再編するという都市制度の抜本改革だったこと。投票には法的拘束力があり、賛成票が一票でも多ければ都構想が実現、反対票が多ければ白紙に戻るという重要な投票だった。

しかも、マスコミの世論調査では「接戦」との予測が出ており、自分の一票が勝敗を左右するかもしれない、そんな緊張感もあった。

マスコミやインターネットでは有識者から一般市民まで、あらゆる論者が都構想のメリットやデメリットについて熱心に議論。大阪市が事前に開いたタウンミーティングにも連日、多くの市民が駆け付け、橋下徹大阪市長らの説明に耳を傾けた。

賛成派を率いる橋下市長や大阪維新の会、反対派の急先鋒に立った自民党や共産党の「アピール合戦」が熱を帯びたのも関心を高めた要因の一つ。住民投票は一般の選挙と異なり「選挙運動」の規制が緩く、テレビでは連日、コマーシャルが流れ、街中には賛否双方のチラシやポスターが溢れかえった。

大通りではひっきりなしに街宣車が大音量を鳴らしながら走り、主要な交差点では賛否両派の議員や運動員が道行く市民に呼びかけた。普段は投票に行かない無党派層も、否が応でも関心を持たざるを得ない状況だった。

最近、盛り上がった住民投票といえば、英国スコットランドの独立運動が思い浮かぶ。昨年9月に実施された、スコットランドが英国から独立するか否かを決める住民投票。賛否両派の論戦は過熱し、スコットランドだけでなく全世界の注目が集まった。

結果は賛成44.7%、反対55.3%で英国残留が決まったが、投票率は84.6%に達した。今年5月の英国総選挙の投票率が66.1%だったことと比較しても、独立の是非を問うた住民投票への関心の高さがうかがい知れる。

日本国内では名古屋市の河村たかし市長が主導し、自らの政策に反発する市議会の解散を目指した2011年の住民投票、埼玉県北本市でJR新駅建設の是非を問うた住民投票などで多くの有権者が投票所に足を運び、通常の選挙より高い投票率となった。

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開票すらされなかった住民投票も
もちろん成功例ばかりではない。2013年に東京都小平市で道路建設計画の見直しを巡って実施された住民投票は投票率が35.2%にとどまり、規定の50%に届かなかったため「不成立」に。住民の投票用紙は開票もされないまま、破棄されることとなった。

今年2月に埼玉県所沢市で行われた小中学校へのエアコン設置を巡る住民投票も投票率は31.5%にとどまった。結果はエアコン設置に「賛成」とする票が上回ったが、市の条例で「結果の重みをしん酌しなければならない」とした基準(賛成、反対のいずれかが有権者の3分の1に達した場合)には届かなかった。

今年5月に愛知県新城市で行われた新庁舎建設を巡る住民投票は投票率が5割を超えたが、直近の市議選に比べると約15ポイント低かった。

明暗を分ける3要素
これらの事例を踏まえて分析すると、有権者の関心を決める最大の要因は、投票にかけられたテーマの中身自体といえる。過去にも米軍基地や原発の建設など、わかりやすくて大きなテーマの住民投票は総じて投票率が高かった。

逆に争点がわかりにくかったり、テーマが矮小だったりすると有権者の足投票所から遠ざかりがち。投票の実施には多額のコストがかかるため「そこまでして住民に問うべきなのか」と冷めた目で見る有権者も増える。「本来は選挙で決めるべきだ」という意見もあるだろう。

二つ目は投票結果の「拘束力」の問題だ。住民投票の大半は議会の解散や首長の解任を決めるもの、もしくは特定のテーマについて住民の意見を求めるもののどちらか。前者は法的拘束力を持つが、後者は拘束力がないため諮問的な位置づけとなる。

後者の場合は投票結果が即、現実の政策に結びつかない可能性があり、住民の「他人事」ととらえやすい。ちなみに大阪市の場合は国政政党に呼びかけて特別法を制定してもらい、法的拘束力のある住民投票を実現させた。

三つ目は政治家の関与だ。名古屋市では河村市長と自民党など既成政党が激しく対立し、双方とも住民に自らの正当性をアピール。大阪でも推進派の維新の会、反対派の自民党や共産党双方が所属議員総出で街角に繰り出し、市民の取り込みを図った。 スコットランドの独立運動でも地域政党であるスコットランド民族党が主導的な役割を果たし、その後の総選挙で支持を急速に伸ばした。政治に不慣れな一般市民が主導するより、言葉巧みで影響力の大きい政治家が中心となった方が関心も高まりやすいといえる。

茨城県つくば市が運動公園の基本計画を巡って今年8月に住民投票を実施するなど、住民投票は今後も全国で相次ぐとみられる。三重県松阪市では市長と対立する市議会の解散を問う住民投票を目指し、リコールの署名集めが始まっている。

民主主義の手段の一つとして住民投票をうまく活用できるかどうかは、今後の地方自治にとって重要な課題。憲法改正の国民投票が現実味を増す国政も、またしかりである。

(地方議会ニュース解説委員 山本洋一)

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<18歳選挙権と地方>(2) 若者代表を議会に送りだそう!

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<18歳選挙権と地方>(2)   若者代表を議会に送りだそう!

地方議会ニュース解説委員 原 英史(株式会社政策工房代表取締役)

 

選挙権年齢を18歳に引き下げる公職選挙法改正が国会で成立しました。

来夏の参議院選に適用されることが注目されていますが、国政だけでなく、地方選挙(首長選挙、地方議会議員選挙)にも適用されます。

 

ただ、新たに選挙権を与えられた若者たちが選挙に行くのかどうかは課題です。

 

若者世代の投票率は、この半世紀の間、大幅に低下してきました。

世代別の投票率データ(衆議院選挙)をみると、

・20歳代は、1967年:66.69%→2014年:32.58%、

・30歳代は、1967年:77.88%→2014年:42.09%。

全世代の投票率は、1967年:73.99%→2014年:52.66%ですから、若者の投票率低下が顕著です。

 

地方選挙での世代別投票率データは全国レベルで集計されていないようですが、市区町村議会議員選挙の全世代投票率をみると、1967年:76.87%→2011年:49.86%と、国政以上に大幅な下落傾向です。若者世代の投票率もさらに大幅に下落していると考えられます。

 

こうした中で、選挙権年齢を引き下げた結果、来夏以降、さらに投票率低下につながる可能性も否めません。

もちろん、そんなことでは、18歳選挙権を実現した意味は半減です。

 

では、どうやって若者たちの政治への関心を高めることができるでしょうか。

 

有効な手立てのひとつは、「若者代表を議会に送り出す」というムーブメントを作ることではないかと思います。

 

国会や地方議会における年齢分布を整理してみると、次の表のようになります。

 

 

  20歳代 30歳代 40歳代 50歳代 60歳代 70歳代 80歳~
衆議院 0.2% 8.9% 26.8% 33.3% 22.9% 7.9% 0%
参議院 6.1% 20.6% 37.6% 23.5% 11.9% 0%
都道府県議会 0.1% 6.3% 18.0% 27.2% 36.5% 11.2% 0.1%
市区議会 0.5% 5.1% 11.9% 27.3% 43.9% 11.0% 0.3%
町村議会 0.1% 1.8% 5.3% 19.4% 53.2% 19.2% 0.9%

(出典)

・全国都道府県議会議長会(2014年7月時点)

・市議会議長会属性調べ(2013年8月集計)

・町村議長会「町村議会実態調査」(2014年7月時点)

 

国会も地方議会も、20歳代・30歳代の議員は圧倒的に少なく、一般社会なら定年になる60歳代以上の議員が多くを占めていることがわかります。

 

そして、国会はまだましな方で、市区議会、町村議会はさらにひどい状態であることもわかります。

・市区議会の場合、40歳未満は5.6%、60歳以上は55.2%、

・町村議会の場合、40歳未満は1.9%、60歳以上は73.3%、

という、極端に偏った年齢構成です。

 

このように、議会と自分たちの世代とが全く隔絶した状態では、若者たちが政治になかなか関心を持てないのも、無理ない面があるのでないでしょうか。

 

だからこそ、ここに、若者の政治参加を拡大するための鍵があると思います。

とりわけ現状ではほぼ若者世代が皆無に近い市区町村議会において、「若者代表」が立候補し、若い世代の有権者が「若者代表」を送り出そうとする動きがうまれれば、事態は大きく変わる可能性があるでしょう。

 

もちろん、現状の議会や制度のもとでは、若者代表の立候補が難しいという問題もあります。

平日昼間は仕事のある人たちが、ふつうに立候補できるような議会への変革も必要です。

また、被選挙権年齢(地方議会議員の場合は25歳以上)をさらに引き下げることも検討すべきでしょう。

 

ただ、こうした議会改革・制度改革を待っているのではなく、それらを前進させるためにも、若い世代が思い切って、一歩前に足を踏み出すことが重要だと思います。

これからの一年間で、こうしたムーブメントが広がるよう、応援していければと思っています。

(地方議会ニュース解説委員 原 英史)

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居眠り、私語、スマホ… 地方議会の呆れた実態(地方議会ニュース解説)

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<地方議会のニュースを斬る>

居眠り、私語、スマホ… 地方議会の呆れた実態
地方議会ニュース解説委員 山本 洋一(政策工房客員研究員、元・日本経済新聞記者)

ほとんど毎回居眠りする議員に、30分間携帯電話を操作し続ける議員――。市民団体がこのほど公表した仙台市議会の「通信簿」。そこには市民の代表として市政について真剣に議論する役目を負う議員たちの、目を疑うような実態が記されている。

通信簿をまとめたのは市民団体「議会ウオッチャー・仙台」。8月に仙台市議選を控え、現職議員の任期である2011年9月定例会から2015年2月定例会まで、計15定例会の本会議全105日間を複数のメンバーが実際に傍聴し、評価を集計した。

中身は2部構成。第一部は「本会議場での議員の態度についての評価」、第二部は「質問内容についての評価」となっている。中でも特に注目すべきは第一部だ。

評価対象は離席、居眠り、私語の3項目。離席については全55議員のうち、9人が10回以上記録。最も多かった議員は77回、離席率は73.3%にのぼった。この最多議員の離席のうち6回は50分から一時間程度という長時間。生理現象は仕方ないにしても、本当にすべてが「やむを得ない理由での離席」だったのか、疑問が残る。

居眠りはもっとひどい。全議員のうち約半数が10回以上記録。居眠り率が50%を超えた議員が9人おり、最も多かった議員は80回、居眠り率が76.2%だった。「開始直後から終了まで熟睡」していたこともあったという。これには選んだ有権者もがっかりだろう。

私語については10回以上が14人いたが、半数以上はゼロだった。当選回数の多いベテラン議員に多く見られ、当選回数の少ない新人議員はほとんどなかった。当選を重ねるにつれ、緊張感が薄れている様子がみてとれる。

このほか会議中に携帯電話やスマートフォンを操作する議員も複数、指摘された。中には「30分ほど」操作し続けた例もあったという。議員としての業務に関わる情報収集だったのか、それともただの時間つぶしだったのかは知る由もない。

今回、調査対象となったのはもっとも格式の高い「本会議」だけだが、議会には本会議の下に各種委員会が設置され、日々開催されている。「委員会はもっとひどいのでは」と想像するのは私だけではないだろう。

議会ウオッチャー・仙台では、居眠りや私語について「議論に集中していないことを示す指標で、いずれも議論の場としての議場でとるべき態度ではない」と指摘。学校に例えて「度が過ぎれば学級崩壊となる」と断じている。

仙台市議選は7月24日に告示、8月2日に投開票される。議員の個人名が明記された今回の「通信簿」は、有権者が投票先を選ぶ際の貴重な資料になるに違いない。

議会ウオッチャー・仙台HP
http://gikai-watcher.net/

(地方議会ニュース解説委員 山本洋一)

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「辞職勧告決議」を受けた議長が居座るのはなぜ?(地方議会ニュース解説)

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<地方議会のニュースを斬る>
「辞職勧告決議」を受けた議長が居座るのはなぜ?
地方議会ニュース解説委員 原 英史(株式会社政策工房代表取締役)

塩釜市議会で6月12日、佐藤英治議長に対する「辞職勧告決議案」を全会一致で可決した、とのニュースがありました(6月13日河北新報)。

理由は、「議会運営をスムーズに進めず、不信感を抱いている。これまで4度可決されたのに、発言に反省の色がない」(同議会議員)ということだそうです。
何といっても、議長を除く全員が一致して可決、しかも、これで5回目というのですから、議長としての信頼がよほど無いのでしょう。

ところが、こうした決議には法的拘束力がないため、これまで4回の決議を受けても議長は辞職しておらず、今回も「議長の重責を担っていきたい」と任期を全うする意向、と報じられています(同)。

これは、なんだか不思議に思われます。
というのは、議長は、市議会議員の議決によって選ばれます(地方自治法103条1項)。
もともと、自分たちで選んだ議員なのですから、あとから「やはり不適任」と思われるなら、解任して、別の議長を選び直せばよいのではないでしょうか。

一般社会ならば当たり前にできることですが、ここに、「法律の壁」があります。
地方自治法上、「議長を解任し、選び直す」ことはできない、と一般に考えられているのです。

もっとも、法律にはっきりそう書いているわけではありません。
地方自治法では、議長に関して以下の規定があります。

地方自治法
第103条 普通地方公共団体の議会は、議員の中から議長及び副議長一人を選挙しなければならない。
2 議長及び副議長の任期は、議員の任期による。

第108条 普通地方公共団体の議会の議長又は副議長は、議会の許可を得て辞職することができる。・・・

これら規定の解釈として、一般には、法律に「議長の解任」の規定が存在しないので、
・議会はいったん議長を選んだら、「議長の解任」はできない
・議長は、議員の任期中は、自ら辞職しない限り、ずっと議長を務められる
と考えられているのです。

議長の辞職勧告決議・不信任決議などは、
「事実上、議会が議決することは差しつかえないが、法的には効果はなく、任期を中途で失わせることとはならない。」
とされています(松本英昭『新版・逐条地方自治法(第7次改訂版)』学陽書房))。

「規定がないからできない」ということなら、地方議会の運営ルールとして(議会ごとに定めている「会議規則」の中で)、独自の規定を定めてしまう可能性はないのでしょうか。
上記逐条解説によると、これも、
「議会の不信任議決により、議長は職を失う旨を会議規則に掲げたものがあれば、違法の会議規則である(行政実例昭和26・1・17)。」
として否定されています。

地方自治法に規定がない以上、議会の会議規則で定めても、その規定が「違法(地方自治法違反)」になるというわけです。
ちなみに、ここで出てくる「行政実例」とは、地方自治体の問合せに対して、国の担当部局が回答したものです。

もっとも、これに対して、専門の研究者の間でも、「こんな行政実例はおかしい」との意見があります。
例えば、岡田彰・元拓殖大学大学教授(地方行政専門)は、
「こんなことは地方自治法の問題ではありません。それぞれの議会の会議規則で、『不信任決議などを受けたら、議長の職を失う』と定めればよいだけのことです。
一般に、住民によるリコールの『根拠』は、選任と罷免の連動性にあるとされています。議長は、議会構成として議員が選挙するのですから,罷免も当然できるはずです。」
と指摘されます。

また、行政実例に関しては、
「行政実例は、役所の都合で挿入・削除が繰り返されています。行政実例を集めた『例規集』は加除式で、簡単に挿入も削除もできます。削除されたら実例は痕跡がありませんので、役所にとっては大変都合がよい。これは、役人の知恵なのです。
ちなみに、直接請求について、『署名は自著』と規定されているのみですが、かつて福岡県知事リコールのとき、日本語以外の署名がありました。そのときの行政実例として、『ロシア語は不可、朝鮮語は可』という、全く不可解な解釈が示されたことがあります。たぶん現在は削除されているでしょう。」
その程度のものだということです。

今回のように、辞職勧告決議・不信任決議などを受けた議長が、決議を無視して居座るという問題は、塩釜市議会だけに限らず、あちこちで起きているようです。
何度決議を出してもらちがあかないのなら、この際、争いのある60年以上前の行政実例にチャレンジし、会議規則で独自ルールを制定してみてもよいのかもしれません。

(地方議会ニュース解説委員 原 英史)

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